<1>奪われた少女
いつも地獄少女は、その時に考えられる最大のネタをやろうと考えています。第1シリーズはあいがなぜ地獄少女になったか、という物語がそれにあたります。制作途中で第2シリーズが決定していたので、これを第2のラストに使うという案もありましたが、ネタは惜しげなく使おうと決断してあの最終エピソードとなっています。第2シリーズはあいが地獄少女をやめる物語を作る、というのが最大のネタだったのですが、それをやってしまった今、第3弾をつくるというのは非常に難しい作業でした。1話はそのあいが戻ってきましたよ、というのをファンの皆さんに嬉しく見てもらいつつ、このシリーズのテイストを暗示させる物語をということで、金巻さんはじめわたなべ監督と私もゴロンゴロンと転がって悩んで完成したものです。あの当時の苦悩が思い出されます。と、ここまで書いて不安になりました。もしかしてゴロンゴロンしていたのは私だけで、実は二人とも結構余裕だったとか……?

<6>わたしのセンセイ
三鼎はゆずきと閻魔あいの物語を縦軸、依頼者とターゲットの物語を横軸となっているので四藁が物語に入りこむ機会がなかなか出てこなかったんですが、一目連がやってくれました。第2シリーズでもそのナルシストぶりがいい味を出していましたが、今回も光ってますよね。私が覚えている一番悩んだ部分は、夕菜が曽根先生と河原にいるシーンで、夕菜が一目連のことを嫌いだ、というのをどういう風に言わすか、ということです。見ている人に笑ってもらえる範囲で、でも夕菜が嫌悪する理由や感情は出せて、そしていい所を突いている…という効果を狙い試行錯誤しました。イリュージョンも地獄チームはやられっぱなしが良かったですね。一目連の衣装がすごい色です。狙ってます。

<11>滲んだ頁
これは、本読みで高木さんに「摩天楼と閻魔あい」みたいな無理難題をぶつけたのが始まりだったと思います。そんな中でもいい感じの地獄物語に作っていただいて、ラストは4人が地獄流しという大盤振る舞いでした。この回はゆずきの考えを表した一言などを聴けるのもポイントですね。イリュージョンで殺人犯の少年が落とされますが、これ私、「もっとやっつけられるべき。ビビッてチビってズボン濡らしましょうよ!」ってダビングの時にわたなべ監督に言った記憶がありますが、やらなくて良かったです。

<12>真夏のグラフ
イリュージョンを選定理由にしていた方が多くて、個人的に非常に嬉しいです。あのシーンのみゲキメーションチームが作っていて、私も参加しているからです。文房具屋さんで鉛筆をダース買いして一本一本鉛筆削りで削ってボンドで留めたら失敗して、輪ゴムだけで組みなおす……。やらねばいけない大事な仕事をほっぽらかして、鉛筆やぐら作りに熱中しました。基本的な演出はコンテとわたなべ監督からの指示に従っていますが、現実はなかなかうまく行かず、現状優先になっているところがあります。ほかにもメガネ娘の望が実は三鼎イチの美少女(あい、ごめん)だったり、みんなの水着姿がこれでもかと出たりと夏らしい楽しいエピソードに仕上がっていると思います。

<13>六文燈籠
地獄の13話はキーとなる話を置くことになっています。二籠は14話になってますが、これは事件の並びを考慮して前後させたためで、本来は13話として書いたものです。今回もあいがゆずきの体から出て行くという、物語が大きく変わる回になっています。そして親友である秋絵の消滅やラストまで影響する事件など取り入れる要素が非常に多く、またその中でゆずきの感情を見せなければいけないというかなり難しいエピソードでした。赤くなる夜景、ふわりと浮かぶ青い光などわたなべ監督の色彩テイストが楽しめる回だと思います。

<17>藁の中
山童ばなしはどこかで絶対やる!と決めていたのですが、このような話の展開になったのは完全に広真紀さんのオリジナリティによるものですね。山童は冬中夏草である、という設定からスタートして、「自己犠牲」をモチーフにお話を作ってもらいました。本編は菌の生えている様子や菌を切り取る際の演出が結構エグいですね。切り取った際に滲み出る体液も当初リアルに赤黒くショッキングだったので、ビデオ編集で済度を落としたり調整をしています。時間軸が頻繁に動く難しい構成ですが、ラストシーンは胸に迫るものがありますね。

<18>スペシャルレディオ
信じていたものが裏切られたという負の感情が、意外でしかも、なんかわかる~!というラストに繋がっています。登場人物たちが、自宅でラジオを聴いているオフショットも楽しい回です。脚本会議は監督はじめ妙齢(笑)のメンバーばかりですので、若かりし頃のラジオの思い出で盛りあがりました。聞いていた番組やDJで、年代がわかるんですよね。この話はそんな甘酸っぱい郷愁もたっぷり入っています。気恥ずかしいほどの知里子のウットリぶりをどうやって表すかがその後の展開のインパクトに繋がるので、知里子の描写はかなり考えていただいたと思います。また知里子の好きという気持ちがチャチに見えてしまうのを避けるため、DJ丈太郎は登場させていません。

<19>雪月花
ゆずきと地獄少女の関わり合いが匂ってくる後半に「運命」を題材にした物語を作っていただきました。地獄少女らしい少し前時代的&不思議設定ですが、絶対無いような話でもないところも良かったですね。裏の流派であるヒャッキ流の設定は、何度か打ち合わせた記憶があります。見ている人が「頭蓋骨に花を生ける」という事に対して、そういう美の見極め方もあるな…と納得してもらえるような流派にするため、花と死の相関のイメージを広げていきました。今回の投票コメントでは、本編ラストのあいとゆずきの印象的なシーンを取り上げている人も多かったですね。暗示的ながらストレートにゆずきに告げる、あいの言葉が今までとはまた違った形の憂鬱オチになっています。

<20>地獄博士 対 地獄少女
つぐみとあいが言葉を交わし、それをゆずきが見るという3つの点がひとつに繋がる瞬間が個人的には好きです。小さい子供だったつぐみが少女になり、そして大人になって今回の三鼎でも存在感を発揮しています。そういえば第2シリーズ初期段階ではつぐみが次の地獄少女になる、という案も出ていたんですよ。すっかり大人になったので、もうそのチャンスはないかと思いますが。サブタイトルはもちろん第1シリーズの「地獄少女 対 地獄少年」をイメージしてつけましたが、後でみたらあっちもちょうど20話だったのです。運命(どんなだ)を感じますね。地獄オールスターズの出演で、憂鬱ながらも華やかな話数となりました。今回登場しなかった柴田一はどうなってしまったのか、みなさん気にされていると思うんですが、この話は別の機会に描かれることになると思います。たぶん。

<24>蜉蝣
ゆずきがついに、自分の存在の秘密を知ってしまう回です。秋恵の影、極度の環境の変化にうずくまる彼女に、つぐみが近づいて優しくそして残酷な諭しを行います。移ろいながら緩やかにすすむ会話劇、合間に映し出される地獄チームの点描など、全体的に暗くアンニュイなお話になりました。ここから3話で完結するので、ついに始まってしまった…という名残惜しい気持ちとともに、迫る最終回をいかに終わらせるかをギリギリまで試行錯誤していたことで、当時の現場はかなりバタバタしていました。また、佐藤聡美さんにゆずきの本当の姿を話していなくて、アフレコ後に渡した次回脚本を読んでかなりショックを受けたようでした。最初に設定を話すとそれを意識した芝居になってしまうということで、監督命令で黙っていたんです。でもシリーズ途中で菅生さんたちがいち早く気付いていろいろいい所を突っ込んでくるんですよね。途中でバラさざるを得ない状況に陥るのではとあせった事もありました。

<25>ゆずき
悲しすぎるお話ですね…。ゆずきの生い立ちを作る際、「無関心が人を殺す」というのを出したいという思いが制作チームにあったのですが、それを物語としてどう成立させるかには試行錯誤というか悩みまくりました。空の捨てられた冷蔵庫に入って出られなくなって死ぬ、昔の事故なんかもアイデアに出したりしましたが、本編ではもっと現代的な、起こりそうな出来事になってよかったと思います。最初は救いの手を望んでいた小さいゆずきが、母が死んだ時を境に泣かなくなり、人に助けを求めずに死んでいく、というところが考えれば考えるほど悲しく、泣けます。あと母親が倒れていてゆずきが靴下で飛び出していく、あのシーンの汚れた靴下がなんとも言えない気持ちにさせますね。

<26>魂の軌跡
ついに最終回です。ゆずきはついに地獄少女になることをやめ、天へと散っていきました。自分の悲しさを同じように共感してくれる人がいる、ただその一点だけでゆずきの心が柔らかくなっていく…監督は最終話の脚本完成前に「複雑な心や多くの出来事が、何気ない事をきっかけに瓦解していく展開を目指したい」と言っていたのを今思い出しました。あの時あいが流した涙は実はすごく大きくて、今まであいは最終回に泣いているんですが、その涙は必ずどこか自分につながっていたんですよね。今回は自分と同じような境遇とはいえ、本当に相手に対して涙を流している。優しさの涙というか。あいも一歩、大人になっているんです。
さて、再びこの世界に残ったあいは、どんな怨めしい出来事に関わることになるのでしょうか。注意深く私たちも見守っていきたいと思います。それでは、また。



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